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投資会社傘下の英ECマッチズファッション CEOが語るリアル店舗とアジア戦略

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オンラインを主軸とする英セレクトショップ、マッチズファッション ドットコム(MATCHESFASHION.COM 以下、マッチズファッション)が成長を続けている。同社は2017年10月、投資会社のアパックス・パートナーズ(APAX PARTNERS)の傘下に入り、テクノロジーへの投資を加速するとともに物理的な体験を強化。その要となる新店舗「5 カルロス プレイス(5 CARLOS PLACE)」を昨年9月、ロンドンのメイフェアにオープンした。売り上げの95%をオンラインが占めるビジネスにおける、リアル店舗の重要性と役割とは?小売りやラグジュアリー・ファッションECの未来からアジア市場戦略までを、ウルリック・ジェローム(Ulric Jerome)最高経営責任者(CEO)に聞いた。

ウルリック・ジェローム=マッチズファッション ドットコムCEO(以下、ジェローム):大きく変わったことはなく、われわれはこれまで通りの計画を達成することにフォーカスしている。アパックス・パートナーズは、パーソナルでファッションの視点を大切にするわれわれのアプローチのよき理解者であり、拡大を続けるオンラインのラグジュアリー市場に期待を寄せている。われわれは、その市場のチャンスを最大限生かすことに邁進しているだけだ。

— 17年度の業績は売上高が前年比44%増の2億9300万ポンド(約418億円)、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が同37%増の2600万ポンド(約37億円)で増収増益、平均客単価は542ポンド(約7万7500円)と高かったが、18年度の業績は?

非公開企業なので、1月末締めの18年度の具体的な数字については公開するか、また公開するとしてもいつになるかは分からない。現時点で言えるのは、高い数値の2ケタ増で増収増益の見込みであるということだ。また、17年は7500万だったウェブサイト訪問数が18年は1億に増加し、その約半分はモバイルデバイスからのアクセスになっている。

取り扱う商品とそのパーソナルで優れたセレクションから生み出されていると考えている。顧客は、われわれのファッション的な視点や、新進デザイナーとより確立されたブランドのミックスに好意的だ。また、あらゆる商品の背景にあるストーリーを伝えることに最大限の力を注いでおり、それが支持されている。そして、オンラインストアにおいてもリアル店舗においても、パーソナルな方法を重視している。

—オンラインが売り上げ全体の95%を占める中で、物理的な体験やリアル店舗の重要性とは?

現代において、“デジタル”と“フィジカル”を分けて考えることは極めて困難だ。その中で、私たちは物理的な出来事における最大限のリーチを可能にするプラットフォームとして、デジタルを活用している。具体的に言うと、店舗で行われるイベントは、インスタグラムのストーリーやビデオ、アプリでのライブストリーミング、ポッドキャストなどで発信される。なので、イベント自体はフィジカルで起こっていても、誰でもモバイルやパソコンを通じてアクセスすることが可能で、たとえ香港にいてもニューヨークにいても体験することができる。突き詰めると、これこそわれわれのビジネスの背景にある革命であり、小売りの未来だと考えている。ただ、そこで重要になってくるのはパーソナルであること。例えば、今は家でソファに座りながらオンラインストアで何でもオーダーできる時代。なので、顧客は店舗を訪れるときまでテクノロジーと直面したいとは思わず、非常にパーソナルなサービスを求めるだろう。テクノロジーは、顧客のことを理解し最高のサービスを提供するために、見えないところで活用されるべきだ。

全ての地域で成長していて、われわれにとって1番成熟した市場である英国でも急成長を遂げている。国別ではアメリカが最大の市場。長年、よりコンサバティブなデパートやモールが強い市場だったが、フレッシュな感覚や新しいものを発見する楽しさをもたらすことで成功を収め、継続的な成長を見せている。また、アジアパシフィックもわれわれにとって非常に重要な地域だ。昨年には、香港のオフィスをアジアのハブとして3倍の規模に拡大した。現在は、より現地の顧客に寄り添ったサービスを提供するため、中国人、日本人、韓国人を含め40人ほどのスタッフがカスタマーケアやスタイリストとして働いている。

—アジアでは17年に韓国語版ウェブサイトをローンチした。また同年、フランス語版ウェブサイトも開設しているが、なぜローカライゼーションにこだわるのか?

商品自体の特性的にかなりインターナショナルなアイテムを販売しているが、特定の国でマーケットシェアを獲得していくには、現地の言語にカスタマイズする必要がある。というのも、言語は非常に高い壁になり得るからだ。韓国でのローカライゼーションのきっかけとなったのは、16年10月に開催した「ヴェトモン(VETEMENTS)」とのイベント。その成功によって、韓国内でのマッチズファッションの認知度が急激に上がり、われわれのファッションに対するアプローチが受け入れられていることを実感した。その後、ウェブサイトに投資することを決め、現在は韓国語でのスタイリングサービスやカスタマーケア、より短時間での配送も提供している。フランスに関して言うと、大きなラグジュアリー市場で顧客も多いが、フランス人はフランス語でショッピングすることを好む。いずれもすぐに目に見える成果があり、ローカライゼーションの重要性を感じている。現在、日本向けには、商品の検索方法や購入のプロセス、よくある質問などウェブサイトの使い方を日本語化したショッピングガイドを表示している。

非常に興味深い市場だ。欧米と比べブランドミックスが少し異なり、より若くストリートを軸にしたスタイルを好む顧客が多い。ファッションピースへの関心も高く、特に日本や韓国ではファッションがSNSでの交流のきっかけにもなっているように思う。また、売り上げ全体の22~23%を成すメンズビジネスにおいて、アジアの重要性は顕著だ。アジアの男性はファッション感度が非常に高く、オンラインで最もファションフォワードな提案をしていると自負するわれわれのセレクションに共感してくれている。また、イギリスやアメリカに比べ、新進デザイナーのアイテムを購入する顧客も多い。先ほども言ったがアジアはわれわれにとって戦略的市場であり、今後も投資を続け、機会を逃さぬよう注視していく。詳細は明かせないが、ローカライゼーションについてもさらに取り組んでいく予定だ。

—ローカライゼーションにおいては、現地企業とパートナーシップを組んでいるのか?

さまざまな形で現地パートナーと協業している。例えば、韓国ではネイバーと共にキャンペーンを制作したり、大手のサムスンカードとカード支払いに関する取り組みを行ったりしている。またPR活動については、現地市場に対するノウハウのある各地のエージェンシーに委託している。ただ、戦略の要であるコンテンツについては社内制作が基本だ。ウェブサイトの半分はストーリーであり、場合によっては現地のカルチャーに精通したライターに依頼することもあるが、マッチズファッションのスタンダードや世界観を大切にしている。

—コンペティターは?その中で、「マッチズファッション」は何を強みとして、どのように差別化を図っているか?

もし市場がすでに飽和状態であれば、コンペティターを意識する必要があるかもしれないが、われわれは市場の機会こそ意識すべきものだと考えている。というのも、ベイン・アンド・カンパニー(BAIN & COMPANY)によると個人向け高級品市場は2600億ユーロ(約32兆円)規模と言われているが、オンラインが占める割合はまだその10%に過ぎない。それが25年には25%まで増加すると予測されており、今はチャンスをどうすれば最大限生かすことができるかを考えるべきときだからだ。それに、ブランドとの関係性が重要なセレクトショップをゼロから始めるのは困難であり、考えてみるとプレーヤーの数自体はそう多くない。その中でもマッチズファッションは、最も鋭い視点でキュレートされたラグジュアリー・ファッションにオンラインでアクセスできる店だと考えている。カタログ的に商品が並ぶ店やマーケットプレイスが多い中、われわれの強みはそんな視点にある。それはロイヤルティーの高い顧客ベースがあることからも明らかだ。われわれの3分の2の売り上げは既存顧客によるもので、視点を生かしたキュレーションと質の高いサービスによるところが大きい。顧客はわれわれをディストリビューターではなく、「マッチズファッション」というブランドとして捉えてくれている。全ての取り組みはブランドを築くためにあり、われわれの提案は独創的なので他社と比べる必要はない。

—ショッピングフロアだけでなく予約制のプライベートショッピング・スイートルームや定期的に入れ替わるカフェスペースを併設し、さまざまなイベントも行っている「5 カルロス プレイス」に期待することは?

この空間を象徴するキーワードは「イン・カンバセーション」。インクルーシブな方法で人々を集めることにより、人々をワクワクさせるとともにインスパイアする極めてエクスクルーシブなコンテンツを生み出すことを目指している。それはファッションだけではなく、フード、アート、ウェルネスなどラグジュアリーなライフスタイル全般にわたるものだ。オープンしてから約4カ月間ですでに60を超えるイベントを開催し、大きな成功を収めている。さまざまな取り組みを通して、タッチポイントを設け、ブランドとしての認知度を上げていくことは、最終的に売り上げにもつながると考えている。また、「イン・カンバセーション」と表現したのは、ラグジュアリー・ファッションやライフスタイルは、限られた少数だけのものであるべきではないから。例えば、学生のようにファッションやアートが好きでも手に入れることはできない人もいるが、だからといってマッチズファッションが提案する体験の“旅”に参加できないということはない。なので、われわれにとってオープンであることは非常に重要であり、こういった方法でラグジュアリー・ファッションの世界にインパクトを与えることができれば、非常に誇らしい。実際、デザイナーが「 5 カルロス プレイス」でトークセッションなどを行う際には多くの学生が来場し、素晴らしい質問をしてくれる。そんな情熱を持った人々が参加できるプラットフォームにしていきたい。

—出店場所にメイフェアを選んだ理由は?

メイフェアの中でも、カルロス・プレイスは「セリーヌ(CELINE)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」といったラグジュアリー・ブランドと、「クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)」「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」など英国のデザイナーズブランドのブティックが建ち並ぶマウント・ストリートに面したファッション感度の高いロケーション。ただ、同じくラグジュアリー・ブランドの店舗が軒を連ねるニュー・ボンド・ストリートやオールド・ボンド・スリートと比べると、ゆったりとショッピングを楽しんだり、時間を過ごしたりすることができるエリアだ。本当にファッションを愛する人々が集まる空間にしたいと考え、この場所を選んだ。

—ラグジュアリー・ファッションECはこれからどうなっていくと考えるか?

非常に難しい挑戦だが、常に消費者動向の変化を追い続ける最前線にあることが必要だ。そして、もはやオンラインの普及率というのは、まったく意味がないと考えている。将来、店舗での販売であっても全てのショッピング体験には何らかの形でデジタルとの関わりがあるようになる。そして、すでにいくつかの国ではアクセスの70%がモバイルデバイスからになっていて、今後はそれが一般的になるだろう。またデジタルは競争の激しい分野でもあり、ますます投資が増えていくだろう。

—マッチズファッションはここ数年、積極的に新たなテクノロジーに投資しているが?

われわれはテック・ビジネスだ。テクノロジーがうまく用いられれば、特定の顧客に適切な情報や商品を適切なタイミングで提供することができる。それはデータによって成しえるものであり、われわれは顧客の動向や購入履歴、関連性の高いブランドなどを組み合わせた独自のアルゴリズムを開発し、活用している。なので、われわれにとってテクノロジーは、顧客にその複雑性を理解されることなく、より良いカスタマーサービスを提供するためにある。そして、常に考慮しているのは、顧客の360度ビューの重要性だ。例えば、「5 カルロス プレイス」を訪れたとき、レセプションや顧客自身のアプリを通じて販売スタッフに到着が通知される。スタッフは接客前に顧客管理アプリで好みや購入履歴を頭に入れることができるので、それぞれの顧客にぴったりの商品を提案できるようになる。また、対面、電話、オンラインとあらゆる顧客とのコミュニケーションをデータ化してカスタマーリレーション・マネジメントシステムで管理しており、その全てがより良いカスタマーサービス実現につながっている。将来的には、どんな小売店もブランドも成功するために、顧客の360度ビューを理解することが必要になってくるだろう。

パーソナライズされたサービスで、グジュアリー・ファッション&ライフスタイルを求める世界中の人々にとっての究極の目的地になることだ。

3年以内に10億円ブランドへ エースが伊トラベルバッグ「ブリックス」と国内総販売店契約

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「プロテカ(PROTECA)」などを手掛けるエースは、イタリアのトラベルバッグブランド「ブリックス(BRIC’S)」と国内総販売店契約を締結した。7月1日からエースが独占販売する。

 「ブリックス」は1952年創業で世界40カ国以上に展開する老舗ブランド。日本には94年に初上陸し、現在の小売りベースでの売上高は約2億円。エースはこれを初年度中に倍増することを目指し、3年後には10億円ブランドに成長させたいという。また、現在は伊勢丹新宿本店や小田急百貨店新宿店など百貨店を中心に10店舗で展開しているが、販路を拡大し百貨店は30店舗以上まで増やすことを目指す。現時点では路面店やショップインショップの展開予定はがないが、将来的には可能性があるという。

 契約締結についてエースは、「『ブリックス』の伝統や独自性の高い洗練されたプロダクトに魅力を感じた。多様化する消費者の要望に応えるため、ファッション要素の高いブランドを展開することで新たな顧客層への提案、国内市場の拡大に期待する」と説明する。